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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2009.09.18)

学ぶ人は朽ちない
        大 釜 茂 璋(NPO法人教育情報プロジェクト代表)

 昨日、今日と東京は爽やかな日が続き、空もぐんと高く感じます。いつの間にか入道雲も姿を消して、今日も真っ青な空にはちぎれ雲が浮いて秋の到来を感じさせてくれます。

 昨夜も九段坂を吹き下りてくる風に誘われるように、仕事を終えてから靖国神社境内を通り抜け、自宅まで40分の道を歩いて帰りました。大鳥居の周りの草叢では虫の音の大合奏。政権が変わり、永田町の騒然とした動きをよそに、虫の音すだく九段坂界隈の平和な静けさなどといえば不遜と言われそうな、9月16日の夜でした。

 ここ数日の間に、相次いで友人の死に遭遇しました。長い間同世代として苦楽を共にしてきた仲間を失うことは筆舌に尽くせぬ寂しさがあり虚脱感に襲われます。またそれとともに、元気だった友人までも妙に老け込んだように、酒席の話題までもが沈みがちになるのが気になります。こんなときこそ元気を出して、死んだ友人の分までも生きてやるぞぐらいの気迫が大事だと思います。

 人間はいつかは死ぬ。必ず死ぬ。そんな強気と弱気が入り混じった気持ちで帰った夜、ふと覗いた本棚に旺文社を創立して社長を務め、長年にわたってわが国の青少年育成に尽くした赤尾好夫さんの著書「若人におくることば」(旺文社文庫)がふと目に停まりました。

 取り出してページをめくっていると『八十二歳の手習い』というエッセーがありました。82歳はまだまだ先のことですが、このような老人の生き方にに赤尾さんも心を動かされて書いたでしょうが、生きることの素晴らしさを改めて教えて頂いた思いでした。

 一部を抜粋し引用します。
「きょう文部省認定の通信教育受講生の優秀者の表彰式が行われたので、祝辞をのべに行った。毎年のことではあるが、これらの人たちの大部分は、環境に恵まれずに働きながら学んでいる。まことに感心すべき人たちで、私はいたく胸をうたれるのである。

 受講生の一人に、美髯を蓄えたりっぱな相当高齢の老人がいた。講堂に入ったときは、私はもちろん通信教育実施団体の役員の人かと思った。

 人品骨柄も態度もりっぱであり堂々としている。整列すると受賞者の中にいる。習字である。書類を見ると、長野県出身であり、八十二歳と書いてある。まさに実在する小野道風である。受賞者の大部分は若い人たちである。

 私はその努力をたたえて、
『涙をもって種をまいたものは、喜びをもってこれを刈る』というドイツの諺を引用し、さらに佐藤一齋の『若くして学べば壮にしてなすことあり』ということばをのべて激励したが、この老人をみてさらに『老にして学べば死して朽ちず』と加えた。

 私の胸に熱いものがこみあげてきた。」

 生きていながら朽ちてはいけないのです。読み進むうちに、赤尾さんの顔がじんわりと瞼に浮かび、改めて胸に迫るものがありました。

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