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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2009.11.25)

英語の指導を支えるもの
                         大 釜 茂 璋


「産経新聞」11月24日付「正論」欄で社会学者の加藤秀俊先生が、「暗黒の『紙芝居』教育はご免だ」と書いている。

 最近、ほうぼうの大学が公開講座を開設して一般市民に講義を聴かせてくださるのはありがたい。加藤先生もときどき聴講に行く。現役の先生たちの専門的なお話し
をうかがうのは勉強になる、とある。

 ところがここ数年、気になってしかたがないことがあるという。

 それは、やたらパワーポイントを使って講義をする人が多いことだという。あらかじめ作成しておいた文字、グラフ、写真などをスクリーンに映し、レーザー・ポインターで指しながら説明している。いうなれば「学術紙芝居」じゃないかと。

 それがたとえば考古学の講座など、必要に応じて古い土器の写真などをみせてくれる程度ならわかるが、講義時間いっぱい、ずっとスライドの連続、という先生がふえてきたという。思想史、哲学、経済学などの学問もそれが多い。その講義を聴きながら要点をノートしようと思っても、部屋の中が真っ暗だからそれができない。

 これはいただけないと私も思う。なぜそんな講義に終始することになるのか。どうもそのような講師の講義には、学問にたいする愛情や聴講者にたいする思いやりが欠けているのではないか。

 これでは先生の顔も見えないし、生徒の顔も見えない。むかしの教育は「対面授業」。即ち教授と学生はお互いに顔を見ながら教室で問答することを前提とした。ところがいまどきのスライド授業は、暗黒のなかでの一方的なオハナシであると手厳しい。

 目を転じてe-prosの研修会を見ると、e-prosの講師の先生はパワーポイントは言うに及ばずCDやDVDなどをフルに使って研修を進めることは多い。しかしその研修では、加藤先生が指摘するようなマイナスイメージの光景に直面したことは一度とてない。
 それぞれの講師は、自分の授業でこのような教具、教材を活用しているケースは多い。しかし授業を通して、闇雲にこれだけを使うということはまず考えられない。

 むしろこのような近代的道具を使いながら、教室での指導法やテクニック、教材の説明、それを私用する教室の中の様子、成果などを映像で解説することは、より直接的でわかりよいと好評だ。生徒たちの喜々と学習に取り組む姿が映し出されると、どうしたらこのような活力ある光景を現出させることができるか聴講する側は真剣に考える。

 そこで講師の先生方について考える。今度の11月期研修会講師の川村光一先生、あるいは12月期研修会の向後先生や田尻先生などでも、すべて共通しているところは、自分の教え子たちの細かなところまで、じつによく観測しているところだ。教え子一人ひとりの一挙手一投足まで知り尽くしているところは驚くばかりである。その上に立っての指導であることを強く感じ取ることができる。暗くて生徒の顔が見えなかったなどとは聞いたこともない。北原先生の授業を記録した映像などは、研修会の時間いっぱい、そのままずっと映してもらいたいとの声が出たほどだ。

 結局はパワーポイントやDVDが悪いのではない。要はそれの使い方に問題があるということだろう。部屋中を真っ暗にしてこれらを使用するなどということは、現在の技術をして考えられない。設備が悪いのか、それとも講義する教授の道具の使い方が悪いのか。

 e-prosの研修会ではどんどんこれらの近代器具、教具を使いながら、少しでもわかりよいフォーラムにしたいと思う。電子黒板の導入は拒否されたが、新しい教育の流れの中で、若手教師も生徒たちもそれを望んでいる。

(おおかま しげあき NPO法人教育情報プロジェクト代表)

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