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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2007.11.17)

最終目標を設定した指導
      大 釜 茂 璋(NPO法人教育情報プロジェクト代表)
 先日、高校の英語教師数人とお話をする機会がありました。
 秋口になって俄然英語に興味を持つようになった生徒が出て来たと思うと、その一方で、なぜか英語に興味を失なって授業中にぼんやりしていたり、朝1時限の授業だというのに欠伸を連発している生徒もいて、どうも最近、教室内がばらばらで活気が見られないと嘆く、若い教師がいました。
 それを聞いた先輩の教師が、いろいろ細かな点に触れながら質問しました。生徒とのコミュニケーションにはどう接しているかと尋ねるとその若い教師は、生徒には授業中はもちろん、廊下ですれ違ったときでも、出来るだけ英語で話しかけるように心がけているからコミュニケーションは十分取れているはずだと、自信ありげに答えていました。
 しかしその先輩教師は、目的や目標がはっきりしないままに、単に生徒に話しかけているからといって、一概に生徒とコミュニケーションが取れているとは言えないことがあると、自分の経験を交えながら話していました。
 かつて教師になりたての頃、張り切っていたこの教師に、出来るだけ生徒には話しかけるように心がけてもらいたい。しかも愛情を持って話しかけると、生徒は必ず応えてくれるはずと教頭先生に教えられたというのです。
 そうだ、自分は英語教師だからできるだけ英語で語りかけようと心にきめ、早速実行したというのです。最初のうちはもの珍しさも手伝ったのか、生徒たちも面白そうに乗ってきましたが、何日か経つとだんだん煩わしそうな態度を見せるようになりました。極端にいやな顔をする生徒も出てきたのです。
 英語で声をかけるといっても、せいぜい「hello」「Good morning」「How are
you?」程度のレベルの英語でも、返事すら返ってこなくなったというのです。廊下を歩いていても私の姿を見ると、わざと横を向いて知らんぷりをきめこんだり、中にはトイレに逃げこんだり。何だこれは、と何度思ったことか。
 これはこの学校の生徒が、特別に英語ができたということではありません。当時
は、英検の受験者もそれほど多いわけでもなかったし、どちらかというと英語を苦手とする生徒が大勢を占めていたと言っても過言ではなかったのです。
 そこであるとき、先生は一人の生徒に聞いて見たというのです。声をかけようとすると、どうしてみんなは自分を避けようとするのだろうか、と。
 すると意外な言葉が返ってきたというのです。先生が私たちにかけてくれるのは、あれは英語ではなくて日本語です、って。だから英語が不得意な私たちですら、あの程度の英語はバカにされているような気がするんです。私たちは先生に見下されているのです。だからこの頃は、英語がますます嫌いになってしまいました。
 結局このとき私が考えたことは、「自分は何を目指して生徒たちに英語で声をかけたのだろうか」ということでした。英語の不得意な生徒に、英語への関心を持たせたい。それはそれでいい。しかし声をかけるときに使った英語のレベルで生徒はどう思い、どう反応するか、ということまで考えただろうか。見下す気持ちは毛頭なかった。しかしどうせ不出来な生徒たちだから、この程度の英語でいいのではないかと、無意識かつ安易に考えていたのではないか。英語の教師だからといって、英語で声をかける安直さ。しかも日本語化したような英語に生徒ははっきり拒否をしたことに気づいたのです。
 それ以来生徒への声かけは、日本語ではっきりと「お早う」「こんにちは」「ど
う、元気?」いうふうに変えました。教師としての自分の未熟さを反省しつつも、自分が今後英語を教えていくこの生徒たちに、「卒業までにはどのレベルの英語を身に付けさせるか」、「そのための指導計画をどう組み立てるか」、「どういった指導法をとるか」、「生徒たちの反応を如何にして汲み取るか」などを考えて先輩教師に相談したり、いろいろな研修会やセミナーに積極的に参加して自分なりの勉強と体験を積み上げてきたというものでした。生徒の反応から自分の失敗に気づき、素直に計画を組み直して先輩教師に相談をする。意欲的に自分なりの勉強をする。
 英語の指導法は数限りなくあります。教師一人ひとりが違います。指導を受ける生徒も一人ひとり違います。その違う生徒の反応を、教師はどう受け止めて適切な指導を加えていくか。そのためには、生徒個々の最終目標を頭に中に留め置きながら指導することが如何に大事にことか。
 そんなこと、とても無理だという人もいました。しかし研修会やフォーラムなどに出て講師の講義を聞きながら、今自分が教えている生徒の顔一人ひとりを頭の中に描きながら、あの生徒にはこうしたい、あの子にはこの部分が活用できると考えながら聞くことができますかと質問をしていました。私はそれが出来ますと。
 前に一度聞いた講師だからということを、研修会に参加しない理由にしている人がいます。しかしベテランの講師はいろいろなケースを知っているし、またその場に応じた指導法も解説してくれるのです。その都度新しい発見のできるのも、ベテラン講師による研修会の特徴でもあります。最終目標を設定した英語指導。その後このベテラン教師の教室からは、英検2級を取得して卒業していく生徒が決して珍しいことではなくなったのです。座学よりも実学ですね。
(おおかま しげあき  元財団法人日本英語検定協会専務理事)

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