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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2011.3.31)

 中嶋洋一先生をお迎えして、e‐pros主催3月期英語指導法研修会は3月27日(日)午前10時30分から、昼休みを挟んで午後4時30分まで、たっぷり6時間にわたって行われました。中嶋先生の情熱とタフネス、この長時間にわたる研修に取組んだ聴講者たち。

 折りしも東北、関東を襲った大地震、大津波。それによって触発された原発事故と、未曾有の大惨事に、一時は中止も検討したことでした。しかし大惨事には心を痛めながらも、新学期を目前にしたこの時期、新指導要領の導入を控えた教育も大事であることから、講師の中嶋先生には特に無理をお願いして実施に踏み切ったものでした。

 この日の研修会は、これからの英語教育を強く意識した指導案の作成がテーマでした。中嶋洋一先生は大学卒業後、埼玉県、生まれ故郷の富山県の小・中学校で教鞭をとり、その卓越した指導法には全国各地から講演やワークショップなどの要請がひっきりなしで、その後富山県で指導主事を歴任しています。公立中学校教頭を経て現在、関西外国語大学国際言語学部教授。NHK教育テレビの「ワクワク授業」などでも紹介され、中学校英語教科書「Sunshine English Course」の著者であり、その他多くの著書やDVDなどを通して広く知られています。

◇未曾有の大震災に一時は中止も検討
 この日の研修会は、東北関東地方大地震の後だけに中止も検討されたことは前述の通りです。事務局内もかなりの動揺とともに逡巡しました。地震や津波の被害を受けた地方の人々が悩み苦しんでいるときに、英語指導法の研修でもないだろうという声も寄せられました。またその一方で、千載一遇のチャンスぜひ参加したいという声や、また派手に騒ぐこともない研修の会だからぜひ開催してほしいという電話やメールもありました。そういう一連の考えを整理し、大勢を集めることは控えめにし、参加できる人だけに参加して貰おうということに規模を縮小して開催することにしたものでした。

 中嶋先生にも事情をご説明したところ、参加できる人がいる限り、極端に一人であっても私は伺いますよと、涙が出るほど嬉しいお返事を頂きました。そして今回参加したくても参加できなかった人のためには、日にちを変えて改めて開催してはどうですかとまで話してくださいました。これは東京や関東地区在住の若手教師には願ってもない嬉しいご提案でした。

 研修会は10時30分から開始でしたが、早い人は9時30分には会場に顔を見せました。中嶋先生も早くからお見えになって指導の準備をされ、並々ならぬ気迫で研修会に臨まれました。参加した人には出来るだけ中嶋先生を近くに感じて貰おうと、小さめの部屋に机をカタカナのコ型に並べ、真ん中からプロジェクターで映像投影と舞台装置が整いました。

 ところが研修開始が近づく頃になると、予約が出来なかったという参加希望者が続々と見えて、配列された机は瞬く間に一杯になり大慌て。急遽追加の机を入れる始末。こういう不安定なときですから、当日の朝になってから状態を見て、参加するかどうかを決めた人が多かったようです。そして感動を呼んだのは、災害を受けた渦中の福島県いわき市から参加した先生もいたことです。教え子のために、また英語教師としての自分のためにも参加に踏み切った強い気持ちは、中嶋先生を初めこの日研修会に参加した人々に、深い感動を与えました。

◇英語の授業・デザイン力向上講座
 今回の研修は中嶋洋一先生による「英語の授業・デザイン力向上講座」として、指導案作成のための特別研修会です。言語教育は、時代の推移・流れとともに常に変わっていくものです。今や国際標準語と言われるまでになった英語も同じこと。そして英語によるコミュニケーション能力の育成は、学校の英語教育でも重要な意味を持つに至っております。

 こういう変化する期待に合わせてどう「指導案」を作るか。「指導案」によって活気づく授業、「指導案」のミスによって変化のない沈んだ授業など、「指導案」一つで、授業の内容は決まってしまいます。この時にあたって教師たちは、どんな授業をデザインし、どんな「指導案」を作るか。

 研修を前にして中嶋先生が示してくださった資料に、次のようなことが書かれています
(引用開始)
 「いつも、尻切れトンボの授業になる。なかなか満足のいく授業ができない」という悩みを聞くことがある。実は、理由は簡単である。「目的(Whyなぜ、それを教えるのか。Whatどんな力をつけたいのか)」がなく、単に「How(どう教えるのか)」「Where(今日はどこまで進めばいいのか)」といった目の前の目標だけにしか目がいっていないからである。「なぜ」がないということは、もし、指導者の「評価観」が狂っていたら、授業そのものが「勘違いされた指導」のまま行われてしまうことになる。

 例えば、「理解の能力」は「初出の英文を読んで(聞いて)概要を理解できる」ということなので、教科書を先に進める授業では、いつまで経っても「理解能力」は身に付かないし、実際にどこまでできるようになったかは判別(評価)できない。(中略)

 教科書を先に進める授業(知識を教え込む、新しい言語材料を定着させるためだけの単発の活動)では、生徒たちは「学ぶ意味」を感じない。「やらされている」と感じる授業では、ワクワクしない生徒たちの集中力が切れ、生徒指導が増えていくだけである。つまり、「できた!」「できるようになった!」という自信をつけるため、次のような技能獲得のトレーニング(活動)が、授業の中に日常的に入っているかどうかが指導案づくりの要となる。

【Backward Designによる授業改善の研修】
○使用するもの-学習指導案(2部)、A3の紙(1枚)、付箋紙(3色)、のり、はさみ

【手順と着目点】
(1)学習指導の流れに沿って、活動順に番号を付ける。
(2)活動ごとに学習指導案を切る。
(3)「本時のねらい」をA3の紙の右上に貼る。
(4)最後の活動から順に並べていく。
*この時に注意することは次の2つである。
  ・「評価の活動」(例:発表など)の部分を見て
   a)「本時のねらい」に沿った評価になっているか。
   b)「評価の活動」が適切な場面にきているか。
(5)1つ1つの活動が「つながっているか」を見る。
*この時に着目することは次の2つである。
a)1つ1つの活動が「何のための活動」なのかを考える。
b)苦手な子にも対応した授業になっているかを見る。
これらの作業を通し、活動間の「つながり」を作るために必要な部分・不必要な部分を見つける。
(6)「つながり」をつくるために必要な活動を考える。
*この時に配慮することは次の2つである。
a) 活動と活動がsmall stepでつながるようにする。
b) 上記の流れを通して気づいたことを余白に書き込む。
(7)活動を「教師がコントロールする活動」「生徒同士が関わる活動」「個人で考え、作業する活動」の3つに分け、3色の付箋紙でそれぞれを色分けする。
付箋紙の色はそれぞれ以下の3つの項目となる。
★ 赤 → 指示、発問、説明など、教師がクラス全体をコントロールしている(全体)
★ 青 → ペアやグループなどで、仲間同士が関わっている(個と個)
★ 黄 → 個人で作業している(他とのつながりはない。沈思黙考・内省)
もし、単なるチェックではなく、特定の生徒に対して、意図的な机間指導を計画しているとか、次の場面につながる考えを探そうとしているなら、それは黄色の付箋紙の上に「細い赤色付箋紙」を貼ることになる。
(8) Backward Designで再構成された学習指導案(after)と元の学習指導案(before)とを比べて見る。

 指導案をバックワード・デザインで考えてみることで、教師の「授業観」が変わる。なぜバックワード・デザインで振り返ると、授業に大きな変化が生まれるのか。(引用終わり)
 
◇時間の経過も気づかぬ熱中
 こうして講座は午前10時半から夕方の午後4時半まで、昼食1時間の休憩を挟み連続で行われました。午後からは、中学校の教師は英語教科書の「NEW HORIZON」(1)、または
(2)を使い、高校の教師は「SUNSHINE  English Course II」を使って、それぞれの「指導案」にも挑戦しました。また各参加者が持参した各自の「指導案」や「テスト用紙」とも比較し、切り張りや色つきの付箋を貼って、それぞれの長所や欠点、改善内容などを披瀝しながら、真剣な議論の研修は時間の経過も気づかぬほどの熱中でした。

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