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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2011.5.07)

バックワード・デザインによる「指導案改善」研修のすすめ 
         -本気で、今の授業を変えたい人へ-
                中嶋 洋一(関西外国語大学)                    

「いつも、尻切れトンボの授業になる。なかなか満足のいく授業が出来ない」という悩みを聞くことがある。実は、理由は簡単である。「目的(Whyなぜ、それを教えるのか。Whatどんな力をつけたいのか)」がなく、単に「How(どう教えるか)」「Where(今日はどこまで進めばいいか)」といった目の前の目標だけにしか目がいっていないからである。「なぜ」がないということは、もし、指導者の「評価観」が狂っていたら、授業そのものが「勘違いされた指導」のまま行われてしまうことになる。 

 例えば、「理解の能力」は「初出の英文を読んで(聞いて)概要を理解できる」ということなので、教科書を先に進める授業では、いつまで経っても「理解の能力」は身に付かないし、実際にどこまでできるようになったかは判別(評価)できない。授業の中でトレーニングをしなければならない。

 教科書を先に進める授業(知識を教え込む、新しい言語材料を定着させるためだけの単発の活動)では、生徒たちは「学ぶ意味」を感じない。「やらされている」と感じは、ワクワクしない生徒たちの集中力が切れ、生徒指導が増えていくだけである。つまり、「できた!」「できるようになった!」という自信をつけるために、次のような技能獲得のためのトレーニング(活動)が、授業の中に日常的に入っているかどうかが指導案づくりの要となる。

★ 聞く
 Shadowing ( content shadowing, prosody shadowing , eye-shadowing ), Repeating
Synchronized reading ( CDと同時読み)など

★ 読む
 150/wpm の速読(build up reading ), One word echoing , Sight translation など

☆ 書く
mind mapping (文章を発展させる構想)5W1Hを意識した発展のさせ方を指導
教師の与える1文に対して、3分間英語で自分の意見を書く。
 基本文の前後に1文付け足して文脈を作らせる など

☆ 話す
Semantic mapping (ペアでインタビューをする。質問をしながらmapping )基本文(日→英), Q & A,3つのトピックから1つを選んでするpair chat(毎時間最初の5分で行う帯学習), 分かったことを伝えるレポート など

 さらに、4技能の統合的な活用(技能をつなげる)を図るためには、生徒同士の意見や考えをつなげていくことが不可欠である。だとすると、個人で書かせた後、ペア学習やグループ学習でつなげていかなければならない。その時の教師の発問や指示は、どうあればいいのか。活動がつながっていくということは、学習者にとって「今、している活動に意味がある」「次の活動に必要である」「知りたい、伝えたいという願いを引きだす」ものになっていることが不可欠である。

ゴール(つけたい力)と、それを可能にする活動をバランスよく取り入れながら、さらに教科書のコンテンツ(内容)でワクワクさせるための発問を考える。そこで、Backward Designの登場となる。今まで、パソコンに向かって頭から創っていた指導案を見直すことで授業の改善点を見つけ出したい。

【Backward Designによる授業改善の研修】
○使用するもの-学習指導案(2部)、A3の紙(1枚)、付箋紙(3色)、のり、はさみ
【手順と着目点】
(1)学習指導の流れに沿って、活動順に番号を付ける。
(2)活動ごとに学習指導案を切る。
(3)「本時のねらい」をA3の紙の右上に貼る。
(4)最後の活動から順に並べていく。
* この時に注意することは次の2つである。
  ・「評価の活動」(例:発表など)の部分を見て
   a)「本時のねらい」に沿った評価になっているか。
   b)「評価の活動」が適切な場面にきているか。
(5)1つ1つの活動が「つながっているか」を見る。
* この時に着目することは次の2つである。
a) 1つ1つの活動が「何のための活動」なのかを考える。
b) 苦手な子にも対応した授業になっているかを見る。
これらの作業を通し、活動間の「つながり」を作るために必要な部分・不必要な部分
を見つける。
(6)「つながり」をつくるために必要な活動を考える。
* この時に配慮することは次の2つである。
a) 活動と活動がsmall stepでつながるようにする。
b) 上記の流れを通して気づいたことを余白に書き込む。
(7)活動を「教師がコントロールする活動」「生徒同士が関わる活動」「個人で考え、作業する活動」の3つに分け、3色の付箋紙でそれぞれを色分けする。
付箋紙の色はそれぞれ以下の3つの項目となる。
★ 赤 → 指示、発問、説明など、教師がクラス全体をコントロールしている(全体)
★ 青 → ペアやグループなどで、仲間同士が関わっている(個と個)
★ 黄 → 個人で作業している(他とのつながりはない。沈思黙考・内省)
もし、単なるチェックではなく、特定の生徒に対して、意図的な机間指導を計画しているとか、次の場面につながる考えを探そうとしているなら、それは黄色の付箋紙の上に「細い赤色付箋紙」を貼ることになる。
(8) Backward Designで再構成された学習指導案(after)と元の学習指導案(before)とを比べて見る。

 指導案をバックワード・デザインで考えてみることで、教師の「授業観」が変わる。なぜバックワード・デザインで振り返ると、授業に大きな変化が生まれるのか。目標を持つことと、三色の付箋紙という二つの視点から考えてみたい。
 
 まず一点目は、目標を持つことについてである。バックワード・デザインは、まず目標を考えることから始まる。目標(ゴール)がなければ、逆算などできない。普段の授業は、定期テストをゴールとして教科書を先に進むことが多い。つまり、頭で考えた活動を順にこなしていく授業である。ここまで進みたい、終わっておきたいという発想で授業をデザインすると、「知識の説明」「教師からのspoon feeding(バカ丁寧な教え込み)」に陥ってしまいがちになる。

 目標がないと、活動がダッチ・ロールのようになる。教師が授業中に思いついたことを突然入れたりして、脱線したり、間延びしたりする。結果として、だらだらするだけである。一方、目標を決めると、すべきことが明確になる。それを、授業の最初に板書しておくことにより、到達させるために選んだ手段(個々の活動)が意味をもつようになる。活動がつながると、生徒も必要観を感じるようになる。指導案をバックワード・デザインで切り貼りしてみると、活動と活動のつながりを強く意識するため、「この活動は何のためにおこなっているのか」と考えるようになる。「何のために?」「なぜ?」という疑問が、どのような力をつけようとしているのかを具体的に考えるきっかけになる。自然と、足りなかったものが見えてくるのである。

 ここでのポイントは、自分だけの目標をたてるのではなく、学校の同僚と同じ目標を共有しあうことである。同じ目標を持った人間が集まり、話し合うことで、学校の「ラベル」が確立されるのである。ペットボトルやビンの「ラベル」は、中身を伝えてくれる大切なものである。私たちは、ラベルを見て、自分が求めているものであることを認識し、それを購入する。つまり「ラベル」とはものごとの価値基準であり、安心・信頼の証でもある。

 では、学校の「ラベル」とは何か。それは、教師だけでなく、生徒も保護者も「最後はこんな姿になる」「こんなことができるようになる」ということを、同じように思い描ける、共通のゴールである。5月の研修会のアンケートに、「バックワード・デザインを、学校の何年後かの姿を考えることに活かしたい」という意見が書かれていた。ゴールを全ての教職員が共有しあい、達成に向けて「最適な手段」を講じようと努力し続ければ、学校が組織として活性化し、教師一人一人が自分たちのプロジェクトに参画しているという喜びを感じるだろう。

 2点目は、三色の付箋紙についてである。研修会では、指導案を「教師の指導(赤)」「グループの活動(青)」「生徒個人の活動(黄)」の3つに分け、赤、青、黄色の付箋紙を指導案に貼る。指導案を作るうえで、この三色の付箋紙のバランスはとても大切になる。

 多いのは、赤→青→赤、つまり教師が発問し、生徒が問題をやり、教師が答えを言うという典型的な「知識注入型の授業」である。この「赤・青・赤」が単調に何度も繰り返されていることが多い。通常、指導案を書いた段階、授業をしている段階では何も見えてこないが、このように活動ごとに3色の付箋紙を貼っていくと、指導者の特徴や癖が見えてくる。

 しかし、「赤→青→赤」といった同じ流れでも、教師が発問の後で、まず個人で考えさせ、次にグループやペアで話し合いをさせ、考えを深めるのであれば、それは全く異なった指導案のねらいになる。登場するのが細い赤色付箋紙である。細い赤色付箋紙とは、赤い付箋紙と同じく、教師の指示だが、全体に対するものではなく、個人やグループに対するものである。それは、助言やヒント、さらには全体に対しての教師の揺さぶりである。

 自分のbeforeとafterの指導案の付箋紙の色を比べてみると一目瞭然で、beforeの指導案が赤色(教師がコントロールする授業、指示、説明の多い授業)ばかりだったのに比べ、afterの方は、黄色(個人作業)や青色(ペアやグループ作業)がバランスよく入っている。前者はプツン、プツンと活動が切れていて、教師が先に進みたい授業になっていた。

 一方、後者の方は、次の活動に無理なくつなげるために「なぜ、その活動をするのか」を考え、「何のために」「どこまで」を意識するようになったためと考える。机間指導では、ねらいをもって、情報を集めたり、よいモデルや間違いやすい例を紹介したりする。必要なのはタイミングと具体的な指導である。それにより、生徒は自らハッと気づき、思考を深めることができるようになる。そうすることで、その後のグループ活動はさらに深いものに進化する。この個人作業からグループ活動への流れ(色付箋紙では、「黄色→青」)と、教師の意図的な指導(教えることなのか、気づかせることなのかを区別する)により、生徒は「メタ認知力(何ができて、何が足りないのかを自己理解する)」が高まるようになるのである。

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