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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2011.9.20)

文化・風俗習慣の違いの理解を
          大釜 茂璋(NPO法人教育情報プロジェクト代表)

 アメリカは言葉文化の社会である。

 日本人は会議でも人との付き合いでも、あんまりぺらぺらしゃべる人間に対して、口数の多いヤツ、口が軽くて信用ができないといった感じで、あんまりいい印象としては受け取らない。

 ところがアメリカは違う。会議などでは、何も話さない人は信用されないし無視されてしまうことが多い。自分の考えも述べられない、あるいは何も考えていない無能な人間として扱われる。しかし、果たしてこの観察は正しいかどうか。

 これは完全に文化の違い、要は風俗習慣の異なることによるもので、特に日本においてはそれだけで、その人が能力的に劣っていることにはならない。日本人の常識的な感覚ならば、口数少なく、肝心なことを手短にびしっと話せることの出来る人ほど有能とされ、それはきわめて出来る人のシンボル的姿なのだ。

 鳥飼玖美子立教大教授の著書に、「異文化をこえる英語」がある。この中に、『沈黙を美とする文化』と『ことばを駆使して闘う文化』というエッセーがある。ここでは人と人とのコミュニケーションにおいて、日本人とアメリカ人の違いを明確に指摘している。
 
 「日本のビジネスマンは、takeばかりで、決してgiveしない」と怒るアメリカ人に接した鳥飼教授が、激しくやりあっている。

 「こちらのことをやたら聞いて来て、情報はしっかり手に入れる。でも自分たちのことは絶対こっちに教えない。何人もの日本人ビジネスマンに会ったけど、こちらが学んだことは何もない」と怒るアメリカ人に対して鳥飼教授は諭して言う。

 「日本人は英語が苦手だから、あなたのように早口で機関銃みたいにしゃべられたら、ついていけないわよ」と。

 するとますますいきり立ったそのアメリカ人、
 「彼らと会うときは必ず通訳がつくんだ。英語力が弱いなんて言わせない」
 「でもね、そうやって相手に考える余裕も与えないようにガンガンしゃべりまくるアメリカ式英語に、日本人は心理的に圧倒されて、しゃべる気力も失せるのよ」

 確かに僕はアメリカ人の中でも、もっとも素直に、もっともストレートに、もっとも遠慮せずに話すタイプだけと得意げなこの男に対して、鳥飼教授は言う。
「じゃあ、日本人と話すときは気をつけたほうがいいわ。あなたがそんな調子で話したら、普通の日本人はきっと話さない。話せないわ」

 この会話にはまさに日本とアメリカの文化の違い、行為にたいする価値、判断力の違いが如実に示されている。鳥飼教授を相手に喋り捲ったこのアメリカ人も日本人憎しとばかりに敵対視してるわけでもない。それがわかっているだけに鳥飼教授もやんわりと日本人の所作を解説してわからせようとするが、その趣旨はまるで通じない。まさに言葉を武器に闘う民族であり、その国の文化がここにもあるのだ。

 日本には「目は口ほどにものを言い」という諺がある。北島三郎は「俺の目を見ろ 何にも言うな」と歌った。何も言葉にしなくても、目の動きや輝きや曇りで人の意思を伝えることができるというのが日本の文化だ。

 「車輪はキイキイ言わなければ、油をさしてもらえない」というアメリカの諺がある。自分の存在、現在の状況を主張できないたとえ車輪だって、キイキイ自分を主張しなければ油を刺してもらえないという。意味するところのこの違いが、言葉をしてコミュニケーションの重要性を物語る。小学校における外国語活動こそこの文化の違い、風俗習慣の違いを教える時期というものであろう。小学校で文法だ、読みだ、解釈だと先走って技術を教え込むことはない。

 4月から始まった小学校の外国語活動。今一度外国語活動の意味をしっかり考え、弁えて、間違いのない外国語学習を進めていきたいものである。
                                   了
(参考資料:鳥飼玖美子著「異文化をこえる英語-日本人はなぜ話せないか」
(丸善ライブラリー 平成8年刊)

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