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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2010.3.12)

家庭の躾を垣間見た日   大 釜 茂 璋

 平成21年度の子ども夢基金助成活動を利用して、NPO法人日本映画映像文化振興センター(三浦朱門理事長)が「第8回子どもシネマスクール」を主宰し、このほど映画「よさこいの向こうに」(38分)を完成させた。このNPO法人は、プロと一緒に映画作りを通して映像文化制作のプロセス知り、実際の映画づくりを子どもたちに体験してもらおうと平成14年から「子どもシネマスクール」を開催してきた。今回で8年目を迎えた。

 映画は、その製作に携わるすべてのスタッフやキャストの総合力による結晶と言われる。監督一人で作るものでもないし、かといって一人や二人の役者だけで作られるものではない。大勢の人間がそれぞれ仕事を分担し、協力する組織や団体の力も結集しながら一つの映像作品を作り上げていく。強烈な仲間意識が必要だし、何よりもそこで働く人々の協調性がものを言うとともに人間としての社会的マナーも大切である。

 映画のロケ現場となった東京・池袋は、街をあげて取り組む「よさこいコンテスト」というお祭りが有名なところ。毎年10月には町内会や学校、職場など、それぞれのグループのよさこい踊りが街を練り歩くコンテストだ。しかしこの映画は「よさこいコンテスト」を紹介するものではない。

 「よさこいコンテスト」のテーマは不登校問題。近年、急増している不登校児童や生徒の問題を取り上げて、一つの解決策を紹介している。現在、きわめて深刻な問題となっている不登校対策は、地域住民たちが協力する中で、当該の児童・生徒たちが如何にしてこれを解決していくか。映画では「よさこいコンテスト」を通じて心を一つにして解決に向かう子ども達や地域の結末が感動的で心地良い。

 映画の出演者はプロの俳優を除き、シネマスクールに応募してきた豊島区の4年生から6年生までの小学生だ。準備は冬休み中の、撮影に入る前のたった数日間の本読みやセリフ回しなどの打ち合わせだけだったというが、だれもが堂々の演技を展開して驚かせる。スタッフやキャストの協力が、仕事を成就する上で如何に大切かがよくわかったと、この日、子どもたちは感想を述べていたが、いずれも貴重な経験を喜んでいた。

 そして先日行われた、出演者へのシネマスクール修了証授与兼試写会でのことである。大勢の観客を集め、完成した映画を鑑賞した後終了証の授与が行われた。

 出演した子ども一人ひとりがステージに呼び出され、主宰したセンターの副理事長から終了証が手渡されるものだが、司会者に名前を読み上げられても「はいっ」と大きな声でしっかり返事する人がじつに少ない。受け取るに際しても「ありがとうございました」とお礼を言う人など、ほんの数人だった。

 早い話し、この子たちの礼儀がなっていない。自分の名前を呼ばれたら「はい」と返事をするのは当たり前のこと。一緒に映画をつくったという自負心や、勉強になったという感謝の気持ちが少しでもあるならば、いくら子どもといえども「ありがとうございました」「お世話になりました」という言葉が出てもおかしくはない。とにかく「はいっ」という返事だ。

 名前を呼ばれると、ぬーっとステージに上がり、終了証を受け取ってぺこんと頭を下げるだけでステージを降りてくる。たまに「はいっ」と返事をし、「ありがとうございました」とお礼を述べる子もいるから、みんなが"ぬーっ・ぺこ"ではない。そんなときは見ている方もほっとする。この違いはなんだろう。プロとして出演した女優の上月左知子さんも挨拶の中で指摘していたが、名前を呼ばれたら返事をすることは家庭における躾けの基本。とかく最近は学校のせいにする人が多いが、これは完全に家庭の問題である。こういう子どもの家庭に限って、呼ばれても返事をしない両親の存在が垣間見られる。

 いい出来だった映画とは別に、複雑に考えさせられる光景だった。(おおかま しげあき  NPO法人教育情報プロジェクト代表、社団法人日本家庭生活研究協会常務理事)

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