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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2010.5.8)

授業を変える、授業が変わる
                 大 釜 茂 璋



 NPO法人教育情報プロジェクト(略称 e-pros)の4月期英語指導法研修会は、4月29日(昭和の日)午前10時10分から、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催されました。

 ゴールデンウィークの初日とあって、世間はちょっと浮き足立ったムードに華やいでいたことから参加数が気になりましたが、研修開始が近づく午前10時頃にはぞくぞく大勢の参加者が詰め掛けて、会場には急遽予備のテーブルを入れるほどの盛会となりました。

 異状なまでの寒さを記録した今年の四月でしたが、この日あたりから気温があがり、やっと春の暖かさを感じるようになりました。会場のアルカディア市ヶ谷が建つ界隈一帯は、春ともなれば桜花爛漫、つい先日まで花見客で賑っていましたが、この日は若葉も青葉に変わり、窓から見下ろす外濠には、のんびり釣り糸を垂れる人々の姿も見られました。

 麹町にあって、e-prosの会場としてすっかりお馴染みとなった日本教育大学院大学とは会場の雰囲気も少し違いましたが、開始に間に合うかと心配してきましたが、JRの駅に近かったので助かったと、開始ぎりぎりに駆け込んで来る人も比較的多く見られました。

 今回のテーマは「授業を変える、授業が変わる」。英語教育への期待が新しく変化を見せているとき、授業を通して英語にどう関心を持たせ、興味へとつないで行くかが、特に中高における英語指導の大きな課題となっております。

 実際授業に臨む各教師がどのような価値観をもって指導をするかは、国際交流が激しくなればなるほど重要になってきます。コミュニケーション能力の育成という掛け声のもとに、文法指導はここ数年、どちらかと言うと手抜きになる傾向が見られました。

 国際理解の掛け声の中で、何を目標に、何をどう、どこまで理解すればいいのか、英語学習の目標もとかく曖昧になりがちでした。

 そんな雰囲気が漂う中、久保野雅史先生や北原延晃先生などベテラン教師はどのような実践を進めてきたか。これは現場で真剣に対処する多くの教師たちの知りたいところでもありました。

 そこで今回のフォーラムでは、新しく要求され、期待に向けて授業を変えて行こうとする気構えと指導技術、そして指導の目標を何に、またどこに置くかを、全国的に有名なお二人の先生に伝授して頂きました。

 久保野先生は「文法力の育成と評価」をテーマに指導していただきました。久保野先生は昨年4月から神奈川大学で教科教育法を指導されていますが、その前は筑波大学附属駒場中・高校に勤務されていました。その経験をもとに大学で学生たちの模擬授業から、文法事項の説明がきわめて下手ということに気づいたものです。

 英語を多用しながら導入やコミュニケーション活動がそこそこに出来るにしても、文法の説明は問題山積というのです。まさに文法指導の改善は、教える当事者がはっきり意識して取り組まないと解決できない事態に陥っているというのです。

 今回久保野先生は12ページにわたる講座レジュメに加えて14ページに及ぶ添付資料などによる分厚いハンドアウトを用意してくださいました。

 一方北原延晃先生は一昨年の4月、それまで教鞭を取っていた狛江市立狛江一中から、東京のど真ん中、港区立赤坂中学校に転勤しました。付近には六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど、華やかで近代的な高層ビルが立ち並ぶ町の中学校として知られます。まさに昼夜の隔てのない国際都市。

 北原先生は赤坂中の英語教師として、また東京都中英研研究部長を務め、若手教師を対象に英語の指導技術を研究しかつ豊富な経験を通しての指導法の伝授を目的にした英語基本指導技術研究会(略称 北研)を定期的に開催しています。また全国各地から声がかかる、ワークショップやセミナーなどで、全国レベルでお馴染みの英語教師です。特に田尻悟郎先生と連携した「北原・田尻の辞書指導ワークショップ」は英語教師間に広く知られています。今回北原先生の講座資料も21ページの大作。これはすべて北原メソッドのオリジナル、書き下ろしです。

 昨年の4月期e-prosフォーラムで北原先生は、「発音指導と辞書指導の結実~赤坂中1年生を追って」と題して、赤坂中学に赴任後の一年間の取り組みとその成果を、映像を使いながら報告してくださいました。

 そのときの講座のレジュメで北原先生は、次のように述べています。

 小学校英語に関するデータ取りから始まった4月。「英語大嫌い!」という生徒たちを励ましながら育てた一年後は、まさに私の英語教師生活史上最高の時を迎えました。たぶん全国どこを探しても、こんな1年生はいないという素晴らしい集団になりました。

 そして今年4月。北原先生の講座タイトルは、「公立中学校日本一更新! ~赤坂中2年生のその後と北原メソッドの威力~」というものでした。英語に対してあれほどまでに後ろ向きだった中1生が、1年を過ごし、2年生を経過して今3年生。その間の成長はちょっと刺激的と、北原先生自ら指摘するほどの「北原メソッドの威力」そのものでした。講座の内容は、次号から掲載する「講座参加者の声」を通してお知らせいたします。

 北原先生が主宰する「北研」は毎月定期的に研究会を開催し、希望者はどなたでも参加することができます。研究会で取り上げた事項や研究成果をまとめた「英語授業の『幹』をつくる本 中学校英語上・下巻」が、このほど上梓されました。どんな心構え、どんな指導技術、どんな知識などを身につけることで、生徒が乗り活動的な授業を展開できるか。そのためにはしっかりした「幹」となるものが必要であると。

「幹」がないから揺らぐ。「幹」がしっかりしていれば、花が咲き、実も稔る。普通の公立中学校を日本一に押し上げた北原メソッドと、この本は紹介されているが、DVDによる映像を駆使したこの日の講座は、実践的に指導場面を紹介して納得感を高め、参加した教師たちに感動を与え大変好評でした。

 この日はe-prosフォーラムではお馴染みの川村光一先生が、今回は聴講者として朝から参加してくださいました。先生は「弾丸インプット」の開発者として知られますが、この4月、幸手市立幸手東中学校の教頭先生に就任しました。小学校から中学校、中学校から高校と、一貫した英語教育の必要性が要請されているとき、教頭先生自ら研修会に参加してその実態を知り、かつ具体的な授業法を研鑽する姿は尊いものがあります。学校管理職が自発的に率先して研修会に参加するような学校の雰囲気は、常に前向きの指導法で活気溢れるであろうと頼もしく思いました。

(おおかま しげあき (社)日本家庭生活研究協会常務理事)

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