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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2010.7.23)

『e-pros通信』に吉田研作先生の講演会聴講者の声を掲載したところ、講演の概要も一緒に掲載して欲しかった、との声が寄せられました。今日のメルマガでは、その要望にお応えしました。なお8月期開催のe-pros主催研修会を合わせて掲載しました。話題の研修会です。夏休み中の自己啓発のためにも、ぜひご参加ください。


日本の英語教育はどうなる
 ― 吉田研作先生の講演から

 6月5日(土)午後5時から東京千代田区の日本教育大学院大学2階特別講義室に、上智大学吉田研作先生をお迎えして6月期パワーアップセミナーが開催されました。このセミナーは今回、株式会社エデュケーショナル ネットワークとNPO法人教育情報プロジェクトの共催で行ったものです。

 吉田研作先生は上智大学外国語学部教授、一般外国語教育センター長、上智大学国際英語情報研究所長などの要職とともに、文部科学省中央教育審議会外国語専門部会委員としてもご活躍されていることはご存知の通りです。

 土曜日の夕方開講にも関らず聴講を希望する人は、予定の定員70名をはるかに超えて90名近く、募集の途中でお断りをしなければならないような状態でしたが、それだけ吉田先生の講演で学ぼうという人が多く、期待も膨らみ大盛況でした。

 講演の内容は、まず先に行われたiBT TOEFL(2009)-Asiaの結果から、日中韓三国の高校生の英語力の比較から解説しました。日本人の力はTOTAL67で、これはコンピュータシステム導入前のTOEFLでは518スコアぐらいに当たります。

 これによる日本人の弱点は、Writing,Speakingといった発信力に弱く、4技能総合でも中国や韓国に先を越されています。英語圏のビジネスマンと対等に仕事のできる英語力は、TOEICでは900スコアが必要と言われ、韓国の企業では最低800スコアは必要とされているといった、調査結果にもとづく具体的なケースをあげながら、わが 国の英語の弱い点や対応法について話されました。

 来年度から小学校でも5,6年生の教科として外国語(英語)が必修となりますが、小学校の英語学習の考え方にも触れられました。

 小学校では英語よりも国語(日本語)教育を重視するべきだとの声もありますが、国際交流が激しくなって、中学・高校の英語教育がコミュニケーション力を身に付けるために、益々重視されてきます。これを受けて小学校では体験をさせるという見地から、英語に触れさせることはきわめて重要であり、調査においても、小学校で英語学習を体験した子どものほうが、中学校で学習する英語をマスターする度合いが高いことが立証されているのです。

 こういう話もされていました。小学校の総学習時間数は5645時間で、その中で外国語に割り当てられた時間は僅か70時間。この時間数を見る限り、英語学習が他の教科の足を引っ張るとは思えず、むしろ外国語学習との相関関係において、それぞれの教科にプラスに働いていると思われるのです。

 中学校の「外国語科」では、指導語数を現行の900語程度から1200語程度まで引き上げました。そしてこれまで重点となっていた「聞く」「話す」から、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を総合的に行う学習活動の充実が図られます。それとともに、外国語で発信しうる内容の充実を図る観点から、教材の題材として、わが国の伝統文化と自然科学が追加されています。

 高等学校「外国語科」は、必履修科目では、現行の選択必履修から「コミュニケーション英語I」の共通必履修に変更されました。

 科目構成を変更し4技能の統合的かつ総合的な育成を図るコミュニケーション科目、論理的に表現する能力の向上を図る表現科目、会話する能力向上を図る「英語会話」に再編されました。

 主な改善事項としては指導する語数が充実されました。コミュニケーション英語I.II及びIIIを履修する場合においては、高等学校で1,800語、中高で3,000語を指導することになります。(従来は高校で1,300語、中高で2,200語)

 そしてちょっとセンセーショナルに報道された嫌いがありますが、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするために、授業は英語で行うことを基本とする、となっています。

 改定案では新しく「コミュニケーション英語基礎」が設けられました。これは中学校と高校のギャップ埋めたいという趣旨のもとに新設されたもので、4技能を踏まえ、中学・高校の橋渡し的な要素を占めたものです。

 高校英語の新学習指導要領の意味するものは、ざっと次のようになります。

<コミュニケーション英語I>
a.事物に関する紹介や対話などを聞いて、情報や考えなどを理解したり、概要や要点をとらえたりする(Listening)
b.説明や物語などを読んで、情報や考え方などを理解したり、概要や要点をとらえたりする(Reading)
c.聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基き、情報や考えなどについて、話し合ったり意見の交換をしたりする(Speaking)
d.聞いたり読んだりしたこと、学んだことや経験したことに基き、情報や考えなどについて、簡潔に書く(Writing)

 これはコミュニケーション英語IIも四つの領域ごと、言語活動を有機的に関連付けているものです。また英語表現I、英語表現IIは発信型科目(Speaking,Writing)を中心に構成されるものです。

 英語を使える日本人の育成を目指して、今後どのような制策・方針がとられようとしているでしょうか。

 まず、小学校に英語が入るということよりも、より一貫性のある英語教育の土台が構築されることです。前に述べられたように、それは小学生から英語に慣れ親しむ体験をさせること、即ちコミュニケーション力を養うことになるからです。

 以降、高校卒業までの英語力育成への示唆として次の項目があげられます。
a.BICS(日常会話能力)からCALP(より学問的かつ大人的能力)へ
b.受信から発信へ
c.スキル別指導から統合指導へ
d.一人で行う英語活動からインタラクションへ
e.日本人としての話題からグローバル・イシューへ

 そして大学での英語教育は、次のような内容で、仕事で英語が使える日本人の育成へつなげることです。
a.国際社会に生きる大人として(日本人、世界市民)のグローバル・イシューの解決等にどれだけ貢献できるか
b.専門を学び、研究し、発表する力をどう身に付けるか
c.社会人として求められるよりも、具体的な場面でも発表力、交渉力、ディスカッション力をどう身に付けるか

 要は教師が変われば生徒は変わるのです。吉田先生がアドバイスを続けてきたあるSELHi導入校で、初年度こそ英語の使用を全く拒否していた教師が、3年後にはすべて英語で授業を進めるようになり、当然学校総体の英語力が向上したケースの紹介もありました。

 吉田先生は講演の最後に、国と社会の意識改革の必要性にも触れられています。英語をマスターするためのモチベーションについて、国自体がどこまでその必要性を認識しているかを、韓国で行われている「アリラン放送」を例にあげて話されました。すべて英語を使っての放送をする同放送は、韓国がこの国としての必要性を強く認識しているのです。何のために、何を期待してその放送を行っているかは、英語を身に付けるべき必要性を、国自体の次の認識によるものです。

○放送の国際交流事業を通じ、韓国に対する国際社会の正しい理解と国際的友好親善の増進に寄与する
○在韓外国人の韓国理解増進及び、内国民の世界化意識改善のための放送事業
                              
■吉田研作先生の講演 聴講者の声
<6月期パワーアップセミナー「英語教育の未来を考える」>
日本の英語教育はどうなる ~英語で授業の可能性~
主催:(株)エデュケーショナルネットワーク
共催:NPO法人 教育情報プロジェクト

・特に、「教師が変われば生徒は変わる」ということに感銘を受けました。多くの難しいことがあって、避けてしまいそうですが、教師が覚悟を決めて、英語での授業をして、その姿を通して生徒に言語教育が効果的にできればよいと思います。アカデミック試験にも興味を持ちました。2時間半があっという間に感じられるほど充実していました。

・小学校英語から中高、大学入試、大学までの英語学習について包括的に内容が組み込まれていて、大変興味深く、参考になりました。

・「BICSからCALPへ」とか「アリラン放送」や「アカデミック英語能力試験」など初めて知るお話が多々あり、大変勉強になりました。民間教育サービス会社に身を置く者には、単なる受験対策英語でない、将来実社会で使える発信型の英語力を磨く英語教育もぜひ考えていきたいと思わせられました。

・私たち英語の教師は「英語のモデル」ではなく、「英語のロールモデル(コミュニケーターとしてのモデル)」を目指すべきであるとの話に感銘し、英語の教師として、また学習者として自身をいただくことができたように感じます。

・小学校のある学校で教えております。小学校から上がってくる生徒の方が落ちこぼれる数が多いのが悩みでしたが、貴重な示唆をいただきました。英語での授業も努力致します。

・日本の英語教育における、英語を使用しての授業の必要性、教師の姿勢が生徒を変えるというお話に感銘を覚えました。

・たくさんの資料をもとに貴重な講演をありがとうございました。小・中学生の子どもがいるので、最近の小学生の英語授業、中学生の英語の授業を実際に見る機会が多いのですが、実際の中学で教えていて、中学校が一番旧態依然としているという気がしました。生徒達が英語を使うことの楽しみ、喜びを味わえる、そしていつかは将来仕事で使いたいと思ってくれる授業をできるよう、努力します。上智卒業生としての使命だと思ってがんばります!

・新学習指導要領の目指すところがよくわかりました。

・今まで疑問に思っていたことが一段高いところでまとめられていたように思います。まだ漠然としておりますが。もっと時間をかけて(3時間くらい)本格的にやって欲しいと思いました。

・私大でなく、センター試験も文法中心からコミュニケーション中心の内容になるよう働きかけていただければ嬉しいです。教科書がもっと魅力的な内容になればと思います。教科書1つで指導できるようになればよいとも思いました。(他のドリルなど使うことなく)

・私は現在、公立中学教員を目指しています。先生のお話を聞き、小学校、中学校の連携の大切さを改めて感じました。中学教員は小学校教育を把握すべきと強く感じ、これから小学校ボランティアを通じて理解に努めたいと思います。大変貴重なお話、また、自分の考えを見直す機会を頂きありがとうございました。2時間半あきることなく集中できる、内容の濃いセミナーを行って頂き、ありがとうございました。

・たくさんデータを紹介していただいたので、今の日本の謙譲を課題がはっきりと認識することができました。また、文科省が何を意図して改訂をしたのかがわかり、これから教師を目指すにあたり、念頭に置くべき国の構想を理解できたと思います。

・様々なデータを示し、現状の問題点から今後の方向性まで示していただき、とてもわかりやすかったです。また教師(英語)としてやっていくモチベーションが高まりました。ありがとうございました。

・小中高の英語教育の現状、課題、今後に向けての動きが大変よくわかり参考になりました。現場の先生から変わらなければならないということが、一番の課題そして動かす源と強く思いました。ありがとうございました。

・自分が英語教員として成長するチャンスが今来ているのだと気持ちが引き締まったと同時に、自分のやる気を高めていけば子どもたちも変わるのだと信じ、精進して生きたいです。本日はありがとうございました。

・様々なデータをもとに大変わかりやすく、興味あるお話を聞くことができました。小学生を持つ親としても、とても有益な情報をありがとうございました。

・小学校での英語教育については、私は今まで否定的でしたが、今日のお話で、方法によっては大変有意義なものになることが分かりました。「体験を重視する」ことは英語のみならず、教育全般の基礎になることを再確認しました。

・「教師が変われば生徒は変わる」という言葉には励まされました。体験学習の重要性が分かりました。

・これからの高校授業のあり方で大変参考になりました。吉田先生のお話しの上手さも勿論、最後まで厭きさせない内容でした。(大学時代が懐かしくなりました…)

・漠然と今まで自分が考え、何となく実践してきたことについて、すっきりとまとめてくださったようでとても爽快感を感じました。同時に周囲の教員とやや違う授業に戸惑われることも多かったのですが、より自信をもって授業を行っていきたいと思いました。

・先生のお考え通りに英語教育が進めば、わが国の将来は明るいのかも…。面白いお話でした。

・児童英語教師養成講座の中で、吉田先生などが紹介されていることを実際耳にして、小学校からの助走の大切さを改めて実感しました。一層小学校で行われていることをしっかり理解し、その流れを断つことがないようにしなくてはいけないこと再確認させていただきました。ありがとうございました。

・「先生が変われば、生徒も変わる」ということがとても印象的でした。英語で授業はどれだけ効果的なのか不安はありますが、まずは自分の意識改革が必要なのだと思いました。日本語の使い方が大事なのだという最後のお話もよく分かりました。自分から変わってみようかと思います。

・お恥ずかしながら不勉強で、新学習指導要領や小学校英語についてかなり誤解があったということがよく分かりました。教員の努力や変化が必要だと身にしみて感じました。

・レジュメが講義の内容を十分にカバーする内容だったので助かりました。ぜひフィードバックしたいと思います。来年度からの教育方針、英語での英語授業など今後の授業展開に生かしてみます。

・まとまりがよく、日本の英語教育の全体像が見えて、これから自分の学校が取り組んでいる課題をどう考えるべきかよい材料になりました。

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