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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2009.5.13)

充実のe-pros4月期フォーラム
                  大 釜 茂 璋

 e-pros主催の4月期英語指導法フォーラムは4月29日(昭和の日)、日本教育大学院大学で開催されました。桜のシーズンも過ぎて、若葉が燃えるように美しかったこの日、e-prosの4月期フォーラムでは恒例となった北原延晃先生の講座、お馴染みの久保野雅史先生の講座と、英語指導の研修では広く知られている講師だけに、連休もものかわ、遠方からの参加者も含め大勢の若手教師、大学生や院生の参加がありました。
 それに加えて今回のフォーラムでは、特別講座として1991年以来長勝彦先生ご夫妻の手で続けられている国際交流の実践報告も人気を呼び、会場内は最初から和気あいあいとした雰囲気で進められました。

 2006年4月、構造改革特別区域法によって創立された日本教育大学院大学を主たる会場として実施してきたe-prosフォーラム。当初は会場の場所が分からず道に迷う参加者も出ましたが、最近は都内はもとより地方からの参加する人も会場までのアクセスに慣れ、すっかり安心して参加できるようになりました。

 会場まではJR四ツ谷駅、市ヶ谷駅からそれぞれ徒歩6分、地下鉄有楽町線の麹町駅から徒歩2分という、きわめて至便の地にあります。

 この日、トップで会場入りした先生は遠く仙台からの参加。しかしこの先生はほぼ毎回のように参加して自己啓発に尽していますから会場までの道は手馴れたもの。「遠くから本当にご苦労様です」と挨拶をすると、「東京で開催されるこのような研修に参加することで、英語指導法最先端の動きを知ることができます。また自分の学習意欲を高めるためにも手頃な刺激になります」と、明るく話していました。

 今回の講師の先生方には、それぞれその指導法において信奉者が大勢いることはご存じの通です。北原先生は田尻悟郎先生と辞書活用の指導を長年続けられ、その研修会は全国的に知られています。また久保野先生の講座だから新潟から参加しましたという、若手の教師も見受けられました。

 長先生にいたっては、少し遅れて講義室に入ってきただけで、たまたま講義中だった北原先生が、「おっ!私の師匠がお見えになった」と声をあげる始末。講義をする側もまた受講する側も、すっかり意気の通い合った、中身の濃い研修会が展開されました。

◇e-pros4月期フォーラム講座
   
1.「発音指導と辞書指導の結実 ― 赤坂中1年生を追って」
    北原 延晃先生(東京都港区立赤坂中学校教諭)
2.「小さな国際交流 ― この春、韓国を訪ねて」
    長 勝彦先生(武蔵野大学文学部 英語・英米文学科客員教授)
    長 敦子先生(書道家)
3.「新指導要領と文法指導 ― 中高のギャップを埋めるために」

 東京都港区は平成18年から「国際人育成を目指す教育特区」として、国際理解を深めるとともに、コミュニケーション能力備え、世界で活躍できる人の育成を、小中学校をあげて推進していることで知られます。

 この日北原先生の講座では、狛江市立狛江第一中学校から現在の港区立赤坂中学校に転勤してからの一年間。赤坂中学校は六本木で知られる東京のど真ん中に位置する中学校です。そのような場所の中学校でありながら、北原先生イズムの英語指導に戸惑い感じる生徒や保護者も多かったようで、徐々に変化していく状況を実際の映像を交えながら解説され、英検合格数などに大きな結果を残すなどでわかるような具体的な成果とともに報告されました。

 これは既に英検が発表している「can-do リスト」の中から5級、4級を元に、北原先生が生徒一人ひとりの英語力を調査し、その結果に基いた指導を行って達成させた大きな成果です。この報告には各参加者から関心を呼び、その調査内容や一年間の伸びに大きな注目を集めました。

 5級を例に見ると、4技能うち「読む」のジャンルの調査項目は「アルファベットの大文字と小文字が読める」「アルファベットが順番どおりに言える」から、「日常生活の身近なことを表す2文字以上の文章を理解することができる」「教科書をスラスラ音読できる」など9項目にわたり個別の力を調査しています。

 「聞く」では、「初歩的な語句や決まり文句を聞いて理解することができる。(Three books./I don't know. How you are.など)」「日常生活の身近な数字を聞き取ることができる。(電話番号、時間、年齢など)「日常的な挨拶を理解することができる。(例:How are you?/ Nice to meet you.)など6項目。
 「話す」では、「アルファベットを見て、その文字を発音できる」「日常生活の身近な単語を発音することができる」から「3~5文で自己紹介や家族・友達紹介ができる」「友達と2行の簡単なペアワーク(対話)ができる」など9項目。

 「書く」では、「アルファベットの大文字と小文字が書ける」「語句を並べて短いメモを書くことができる(例:party,6:00)」「短い文であれば、英語の語順で書くことができる。(例:I go to school at eight.)など6項目。

 他に語彙として、「教科書に出てくる語のうち、簡単な語は発音できるし、意味もわかる」の項目を調査しています。

 これらの調査を年間4回(4月、9月、12月、3月)実施して、何人の生徒がこの項目をクリアしたかを、時系列的に調べ実態を把握していったものでした。例えば「アルファベットの大文字と小文字が読める」では、4月の時点では28名だったものが、9月29名、12月30名、3月31名となり、ほぼ全員が自信があると答えています。

 その一方で「教科書をスラスラ音読できる」は、4月は調査項目から外していますが、9月13名、12月19名、3月24名となり、まだ全員が自信をもって読める段階にはないことを示しています。

 結局このような実態を教師はしっかり掌握したうえで、個別の指導法に配慮しながら授業をする状況、その経緯などが映像で紹介しながら解説をし、その対応方法を発表してくださったものでした。

 英検4級レベルについても同様な方法で調査をし、その結果に基いてきめ細かな指導を行っています。要はそれぞれの生徒の力をどのような方法で把握するかということですが、これによって生徒の学習意欲は見違えるほどついてきていることが、映像からもよくわかりました。

 その間隙を縫って、「その都度生徒に反省を求めてはいけない」「誉めてあげる。それが次ぎの学習意欲につながる」「単語テストは無意味」「綴りを間違えても気にしない。英検で綴りの問題などは出さない」「アルファベットの大文字小文字が書ければ、ペンマンシップなどは不要」「辞書は生徒の自覚の手段に活用する」「生徒間の協力を活かす。習熟度別指導は、英語においては効果が見られない」など貴重な『北原用語』がふんだんに散りばめられて、個人管理の重要性を説くまさに実践的で即明日からの授業に役立つな研修会でした。

 これら一年間の活動を経て3学期終了時、指導した生徒たちからいろいろな声が寄せられました。当初はそれまでの指導法との開きに大きな戸惑いを見せていた赤坂中の生徒たちでしたが、一年間の目覚しい成果を得て、ますます学習意欲を漲らせていることがわかります。その一部をご紹介します。

□リスニング
○ペアワークやみんなの発表などで知っている単語や動詞があれば、大体内容理解
ができるようになった。英検でも実感があったが、リスニングが大分できるようになった。
○リスニングで英文をよく聞き取れるようになりました。リスニングを録音した人は私のようにゆっくり話さないので以前は聞き取るのが困難でしたが、今はそれにも慣れて聞き取れるようになりました。
○リスニングが前よりよくできるようになって、先生の話の意味が分かるようにな
りました。

□スピーキング
○昨日の天気を答えるときも、Itの次にすぐwasと意識しなくても言えるようになったのには、自分でもすごくびっくりしました。これも「クイックQ&A」のお蔭だと思っています。
○電話のスキットでは、やる内容から二人で考え、今まで習ったことを使えるようになりました。
○Q&Aでやった質問で答えることも身につきました。まだwasという語は習っていませんでしたが、Q&Aをやることでその使い方がわかりました。

□リーディング
○過去形や一般動詞を用いた文が理解できるようになりました。例えば「オリビア」では、自分たちの班で内容を理解したり、発音したりすることができました。
○辞書で単語の意味を調べ、絵本の内容を理解できるようになりました。

□ライティング
○教科書を見ないで本文を書けるようになりました。
○今までよりも速く英単語や文章が書けるくらい英語に慣れました。
○黒板を写すことも速くなったと思った。
○教科書や辞書をモデルにして文を書きかえるなど、自分なりの工夫ができるようになった。
○今までは単語の意味や文法が分かっていても、慣れていないせいか上手く文を作
れず、正直苦手でした。今はライティングをやっているお蔭で、具体的にどう作
文すればいいか分かり、大得意になりました。
○教科書の文をもとにして辞書を引いたりしながら、オリジナルの内容を自分で考えたりできるようになった。

□文法
○動詞の不規則変化が、go→went 等の簡単なものなら理解できるし、書くこともできるようになった。
○不規則動詞を覚えた。
○人称を表す代名詞を覚えた。

□教科書の音読星読み
○教科書がすらすら読めるようになった。
○教科書の文が覚えられるようになった。音読の星読みの数を10個にして、沢山読んで覚えた。
○教科書の内容を覚え、ノートの書くことができるようになった。学年末テストが99点。これは教科書の内容を覚えられ、何も見ないで書くことができるようになったから、良い結果が出せたんだと思いました。
□その他
○レベルの高さに慣れることさえ大変でした。(1月の転入生)
○英語は短時間で多い内容をたたき込むより、毎日少しずつ勉強していく方が絶対にいいと思いました

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