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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2009.6.27)

「教科書だけで大学入試は突破できる」
     ~ 金谷 憲先生編著の新刊から


             大 釜 茂 璋

「高校英語教育が変わらないと、日本人の英語力の向上は図れないと編者は考える」という「まえがき」で始まる本が大修館書店から出版されました。

 変革する現在の英語指導をリードする「英語教育21世紀叢書」の1冊ですが、本のタイトルは『教科書だけで大学入試は突破できる』。編者は金谷憲先生。

 「教科書をやっていたって、入試には対応できない」とはよく聞く言葉ですが、そんな思い込みは今日限り捨ててくださいというのが、この本のコンセプト。教科書と大学入試英語を照合した結果、文法は教科書に出てくる14項目を押さえればOKというのです。語彙の95.6パーセントは教科書でカバーできると、データを基に解説するこの本を読むことで、まさにこれからの高校の英語教育に確信をもって対処できるというものです。この内容は、データは嘘をつかないとも述べています。

 英語を身につけるということは、まるでマラソンレースのようなもので、それは決して短距離レースではないと金谷先生は指摘します。そしてこの長いレースの、大事な中盤を担っているのが高校の英語指導であるというのです。

 確かに大学入試の改善は、高校だけでなく中学における英語指導にも影響を及ぼしています。お亡くなりになったJACET会長、早稲田大学教授の田辺先生もかつて同様のお話しをしていたことがありました。しかし、それだけで物事は解決するわけではないとも話されてもいました。大学入試だけを悪者扱いにして、それを退治すれば、英語教育が劇的に改善されるものでもないということです。最近は大学入試の問題もいろいろな変化を見せてきていて、コミュニカティブにウエートを置いて、工夫された出題にもお目にかかることも多くなりました。

 このような出題に対応した入試対策は出来ているのかどうか。入試に対応した指導を重ねることによって、果たして日本人の英語力が阻害されているのだろうか。言われてきたように、教科書で基礎力を養うだけの授業では入試に対応できないのだろうかと、金谷先生は疑問を投げかけるとともに問題を提起しています。

 この本は、このような見地から問題を分析し、高校での英語指導がそれに適切に対応した場合、どのくらい有効に対処できているのかを各大学の入試問題から文法編、語彙編、分量編、カリキュラム編に別けてデータ処理をし、分析しながら多面的かつ具体的に解説しています。

 それによると文法は、大学入試に頻出する文法事項の数はかなり限られていて、調査対象となった大学入試で過去5年に10回以上出題されているものは、調査対象となった文法事項63項目のうち14項目しかなかったそうです。即ち入試頻出の文法事項は、殆どが教科書でカバーされていて、多くの場合は複数回扱われていることがわかりました。

 また語彙においても、調査対象となった入試問題の語彙は大学・学部にかかわらず95パーセント以上が教科書に含まれている語彙によってカバーされていました。この場合、教科書でカバーされていない語を未知語して、どのくらい正解を導き出せるかを試したところ、多い場合は100パーセントの正解を引き出すことができることもわかりました。

 これらのデータや分析を通して編者である金谷先生は、次の二つのことを提言しています。


(1)入試を気分的に捉えることなく、入試にきちんと向かい合うこと。ちゃんと分析をし、冷静に計画を立てることが大事であると。特殊な勉強をしなければ入試を突破できないという考えはよそう。
(2)入試を言い訳に使うのはよそう。文法事項などは、入試頻出の事項などは、実際にもよく使われる基礎的な事項である。入試対応の勉強をしたからといって、「使える英語」が身につかないということはない。

 執筆者の中には、e-prosフォーラムの講師のお一人として指導をしてくださる久保野雅史先生(神奈川大学准教授)も加わっております。

 「教科書だけで大学入試は突破できる」金谷 憲 編著
 (英語教育21世紀叢書 大修館書店 四六判224ページ ¥1,800+税)
(おおかま しげあき NPO法人教育情報プロジェクト代表)

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