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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2010.4.23)

秋田の教育の背景にあるもの
                 大 釜 茂 璋



 高校の同期会が開催され、急遽秋田市へ旅行してきました。たまたま文部科学省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の実施日。秋田は学力テストで毎年全国のトップクラスを維持してきていることから、学校関係者以外の人々のテストに関する反応なども気になっていました。一度は確かめてみようと。

 やはりというか驚いたことには、今日学校で学力テストを実施していることは、特に該当する年齢の子どもを持っていない人も含め殆んどの人が知っていました。
確かに秋田県はこの調査が始まった平成19年度以来、小学6年生の成績は常にトップ、中3も2位、3位といった上位を維持してきているのです。

それだけに今年の出来はどうだったかを気にしてるのだろうと思っていたところ、子どもが風邪など引いたりしないよう、ここしばらく家族同士で気を使ってきたが今朝は元気に学校へ行ったので良かったと、その日のための健康管理に気を配ったことの成功を喜んでいるのでした。

 今年の1月、私が関係している社団法人日本家庭生活研究協会と日本教育大学院大学が共催した教育シンポジウム「日本一の教育力を問う!」でも、秋田の教育は学校・家庭・地域社会が三位一体となった協力意識や協力態勢が、長期の生活様式の中に組み込まれているとの、専門家の分析による報告がなされていました。

 同時に報告された福井県の場合もそうでしたが、秋田県では学校の教師にたいする信頼がきわめて強いものがあるというのです。学校生活の中ではわが子といえども、完全に教師に任せているのです。従って家庭の団欒の中で親は教師を貶したり悪口を言うことは殆んどないというのも、子ども達が安心して学校で勉強し、そのままの状態で家庭学習に結びついているというのです。

 親が子の健康に気を使うことは当たり前のことですが、テスト実施の何日も前からその日を意識して健康管理に努めることは、まさに家庭、地域社会が一体となって、学校生活を盛り上げている姿であり行動だと思いました。

 今回も話を聞いた限りでは、テストの前日は家族もテレビを見ながら夜更かしをすることを避けたという人もいたし、昨夜は父親も早く帰宅して家族みんなで夕餉の食卓を囲んだという人もいました。子どもが家族の温もりを感じながら、安心した気分になるために大きな効果なるだろうと思ったものでした。昔はどこでもそんな生活をしてきたはずだがともおもいましたが、最近、特に都会ではこのような観念が稀薄になってきていることを感じます。家族が無意識にこのような行動を取っている背景があればこそ、トップクラスを維持する秋田県の特徴を感じたものです。

 全国学力テストは好成績だが大学進学はいまいちというのが、これまでの秋田県の存在でした。ところがこの春は東大をはじめ各大学への合格者を大幅に増やしたというのも話題になっていました。

 今年の大学合格状況を県立秋田高校で見ると、順不動で北からざっとあげると、北海道大12名、東北大大59名、秋田大41名、東京大16名、新潟大22名、私立大では早稲田25名、慶應20名、明治33名、立教30名、法政26名、中央41名、東京理大29名、その他となっています。

 かつて大学の合格状況の低迷は県議会でも取り上げられたことがありましたが、これに対し当時の知事が、「大学の進学率向上に積極的に取り組む」と答え、「高校生パワーアップ推進事業」として、年1億円を超す予算を充ててきたものが功を奏していると見られています。

 そのためには大手予備校から講師を招いて講座を開いたり、県外の進学校の授業への参加や合宿なども行いました。今年1月のシンポジウムにも参加してくださった根岸均教育長は、一年前の県議会で、「センター試験10番台、東大合格者倍増する」との目標を設定し、この春ほぼその目標に到達させたということです。

 これらの行動の中には、それぞれの先生方の指導技術向上のための積極的な取り組みも加わるものですが、e-prosの研修会にも熱心に秋田県から、それも自費で参加してくる人もいて、そのような熱意が生徒に刺激を与え、親に信頼感を持たせる大きな効果を発揮していると思われます。「ローマは一日にしてならず」 まさに学校、家庭、地域社会一体となった環境が教師一人ひとりの意識に強く結びついて、秋田の教育を高レベルに作り上げていると思いました。

(おおかま しげあき (社)日本家庭生活研究協会常務理事)

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