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フォーラムレポート

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英語教育東京フォーラム(2010.9.22)


発達障害児への意欲的取組み ― 江戸川区立二之江小学校のケースから    大 釜 茂 璋


 高性能自閉症、自閉症、情緒障害、難聴をはじめ学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、ダウン症など、特別支援を必要とする児童・生徒の教育について、積極的に取り組む自治体が多く見かけるようになった。

 授業中に突然パニック状態になり、奇声を発したり、泣き叫び、ふいと教室の外に出て行ったり、あるいは床に寝転んだりという状況を見たり、聞いたりすることも珍しくはない。

 文部科学省も『脳科学研究ルネッサンス』という報告書で、「発達障害を予防する方法を開発して、発達障害を大幅に減らしていく」と宣言した。新聞によると埼玉県ではこの夏、発達障害を含む子どもの発達支援に取り組むプロジェクトチームを発足させ、発達障害児とその親の支援に、県をあげて取り組むことになった。

 取り組むプロセスは、第1段階として「発達障害の予防」、第2段階は「早期発見」、第3段階は「早期支援」、第4段階は「教育支援」である。発達障害児は今全国に60万人を数えると言われるが、行政、学校、親はこの子ども達のために、何が出来て、その上に立って何をなすべきか。

 明星大大学院高橋史朗教授の産経新聞に寄せた文によると、「動物は本能によって繁殖の作法と子育ての文化を継承するが、人間は教育(学習)しない限り、子育ての文化は断絶してしまう」とあった。高橋教授は埼玉県教育委員長の経験を持つが、埼玉県では「発達障害課」の新設など行政の責任の所在を明確にした上で、官民一体となっての取組みが進んでいるという。

 東京都江戸川区立二之江小学校(小林省三校長)は、発達障害児教育に英語指導を取り入れてコミュニケーション力をつける大きな成果をあげている。来年度から小学校高学年に正課として英語が導入されることは関係者ならば誰もが知るところである。しかし同校では小林校長先生の肝いりで特別支援学級「わかくさ学級」で英語をツールとした授業を取り入れ、それがこの学級に通う子ども達に大好評。日本語だけの学習とは違った成果をあげて注目を集めている。

 江戸川区には73校の小学校があるが、その中に23の特別支援学級が設置されている。発達障害児の支援対策として東京都も新しい動きが始まっているが、これからの教育の課題として見過ごすことができない問題となっている。二之江小学校小林省三校長が「教育新聞」に、「障害児英語教育」の確立でと題する主張を書いている。要約を紹介する。

 『私には夢があり。それは人と人との良好な関係を構築していくコミュニケーション力をつけ、明るく積極的・意欲的な子どもを育てることである。特に知的障害のある子どもにとっては、それは重要なことである。なぜならそうした力は生きる術にもなるからである。そのための実践方法として、英語活動が有効な方法の一つとではないかと私は考え~。

(二之江小学校に)校長として着任したのは4年前、「ALTとの楽しいコミュニケーション体験活動を通して不登校児、自閉症児が明るく、積極的・意欲的になっている知見を得た(渡邊寛治文京学院大学大学院教授)の論を支えとして、英語活動を取り入れた。

 JTEをT1として毎週1回活動した。担任と私はT2として、すべて英語での活動を試みた。「母語もままならないのに、どうして英語なの?」と言う方もいた。しかし心配は無用だった。平成19年からスタートしたが、1日目から子どもが変容した。彼らは異言語をしっかり聴き取ろうとし、JTEの口を注視していた。発音をまねして発声した。母語では言えなかった言葉が英語では言えた。卒業式、ダウン症のA児はしっかり母語で、今まで歌えなかった(歌わなかった)校歌を胸を張って歌った。

 平成20年のある日、子ども達と地下鉄に乗ったところインドの方が乗車してきた。B児(自閉症)は、私たちの手を振り払い「ハロー、グッドモーニング」と言いながら握手をしようとしたのだ。インドの方も驚いたが、それ以上にわれわれが驚いた。B児には英語が通じると思ったこと(異文化理解)、英語を使ってみようとしたこと(積極的・意欲的な心)の芽生えが生じた。 

 平成21年10月、30人の子ども達が、江戸川区主催「おもいっきり表現してみよう!コンクール」に出場した。英語の絵本「ブラウンベア」の朗読をしたが、ひときわ大きな拍手をいただいた。自尊感情からか、自信をもった子ども達は学芸会でも英語劇を演じた。

(中略)

 (渡邊寛治教授のもとで書き上げた小林校長の論文では)自閉症児、ダウン症児の6事例から、国際コミュニケーション(「共生」「自己決定行動」「主体性」)の素地ともなる、明るい心、積極的・意欲的な心がはぐくまれ、母語にも影響を及ぼすことを結論とした。』

(おおかましげあき NPO法人教育情報プロジェクト代表)

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